【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~


自分が何者なのかわからなくなるとき。

哀しみで胸が潰れそうになるとき。

あたしはいつの頃からか救いを求めるように泳ぐようになった。

水の中にいると外界の音が遠のき、自分の鼓動を凄く近く感じる。

母の胎内に居るようで、いつの間にか心が穏やかになる。

この水底に沈んだら、あの日と同じようにもう一度忘れられるだろうか。

この夏の忌まわしい出来事も…

思い出した哀しい過去も…

廉君との思い出の全ても…

水面に揺れる銀の月があたしを誘う。

このまま水に溶け込んで何もかも忘れてしまえばいい

そうすれば廉君もあたしから解放される

苦しいのはほんの少し

足枷になって生きるくらいなら

ずっと恐怖に脅えて生きるくらいなら

この水の泡になって消えてしまえばいい

いけないと、心の中でもう一人の自分が叫んでいた。

だけど、身体はまるで別の意志に操られるように

水面へと引き寄せられていくのを止めることはできなかった―…