自分が何者なのかわからなくなるとき。
哀しみで胸が潰れそうになるとき。
あたしはいつの頃からか救いを求めるように泳ぐようになった。
水の中にいると外界の音が遠のき、自分の鼓動を凄く近く感じる。
母の胎内に居るようで、いつの間にか心が穏やかになる。
この水底に沈んだら、あの日と同じようにもう一度忘れられるだろうか。
この夏の忌まわしい出来事も…
思い出した哀しい過去も…
廉君との思い出の全ても…
水面に揺れる銀の月があたしを誘う。
このまま水に溶け込んで何もかも忘れてしまえばいい
そうすれば廉君もあたしから解放される
苦しいのはほんの少し
足枷になって生きるくらいなら
ずっと恐怖に脅えて生きるくらいなら
この水の泡になって消えてしまえばいい
いけないと、心の中でもう一人の自分が叫んでいた。
だけど、身体はまるで別の意志に操られるように
水面へと引き寄せられていくのを止めることはできなかった―…



