香織は昨日と同じ病院で手当を受けた。

精神安定剤で昏々と眠る彼女を見つめて、僕は言いようのない不安を抱えていた。

興奮状態で泣き続ける彼女を抱いて救急車に乗ったものの、僕から離れようとせず、質問にも満足に答えられない彼女を見て、僕は改めて彼女の心の傷の深さを知った。

別荘で別れたときは、健気にも最後まで笑顔で通した香織だったが、命の危険を目の当たりにし、彼女の耐えていたものは脆くも崩れ去った。

目が覚めたときの事を思うと不安で仕方が無かった。

気丈に振舞っていただけに、その心の負担は僕には計り知れないほど大きなものだっただろう。


心に後遺症は残らないだろうか。


僕を見るのも嫌になったのではないだろうか。


彼女を手放さず護ると決めたけれど、香織がそれを拒絶すれば、僕には彼女を縛る権利は無い。

拒まれないことをひたすら祈るだけだ。

青白い顔には、所々擦り傷がある。

村田に噛み付き引き剥がされたとき、唇を切ったらしく、愛らしい唇には痛々しい痕が残っていた。

「香織…どうか…ずっと僕の傍にいて」

祈るような気持ちで手を取りその甲に口付ける。

「僕が命に代えてもきっと護るから…」

僕に応えるように…

細い指がピクリと動いた。