貨物列車の車体が僅かに僕の髪を掠める。

引き寄せた反動で転がるように線路脇の非難スペースへと滑り込んだ。

二人が身を寄せる非難スペースの真横を、騒音と共にものすごい風圧で列車が通り過ぎていった。

ヒステリックな女の叫び声のような甲高いブレーキ音が響く。

鼓膜を引き裂かれるような痛みに襲われ、車輪から飛び散る火花がチリチリと皮膚を焼いた。

ほんの僅かでも遅かったら、あの恐ろしい金属音に香織の悲鳴が重なっていただろう。
そう思うとゾッとした。

全身から冷たい汗が噴き出し、血が逆流するように激しく脈打っている。

特に怪我も無く生きていることが、まだ不思議だった。

無事を確かめるように香織を抱きしめると、細い身体が腕の中でガクガクと震え出した。

今になって恐怖が襲ってきたのだろう。

激しく震え、大粒の涙をこぼしながら僕に縋り付いてきた。