【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~

心に穴の開いた僕には彼を哀れむ感情などなく、その声はどこまでも冷たい。

僕の変化に驚いたらしい紀之さんは、咳き込みながらも呼吸を整え居住まいを正すと、それまでの軽い態度を変え向かい合った。

彼は香織がホテルへ行くことを春日の情報筋から知り得て、彼女を脅し身を引かせようとしたと白状した。

ホテルでの事を、順を追って話す紀之さんに偽りはなさそうだった。

むしろ香織襲われた事を本当に知らなかったらしく、詳細を聞き、あからさまに表情を変えた。

「彼女が襲われたのはいつだ?」

「昨日…ホテルからの帰りだ。あなたが香織に会った後ですよ」

言葉遣いが普段通りになっている自分に気付き、少し冷静になったようだと、自分の中のもう一人の僕が分析していた。