目の前でニヤニヤと挑発的な笑いを浮かべる男の顔には見覚えがある。

僕より5歳年上の従兄、瀬名紀之(せな のりゆき)だ。

「…紀之さん…香織に何をしているんです」

明らかに嫌がっている香織を自慢のポルシェに押し付け、無理矢理顔を覗き込む行為に、湧き上がる怒り。

カッと身体に火がつき体温が上昇するのとは反比例して、怒りに震える声は低く静かだった。

ツカツカと近寄ると香織を閉じ込めている腕を右手で掴んで振り払い、同時に左手で彼女を引き寄せ腕の中に収める。

「香織に触らないで下さい。あなたの毒牙にかけるわけにはいきません」

怒りに震え睨みつける僕を見て、一瞬驚いた顔をした紀之さんは、いきなり弾けたように笑い出した。