彼女がいない自室はこんなにも広かっただろうか。

ソファーに沈み込み身体を横たえ目を瞑ると、堰き止めていた砦が決壊したように、耐え続けた感情が溢れ出した。

滲む視界に浮かび上がった彼女の幻は、心からの笑顔を僕に向け佇んでいる。

触れることの叶わない幻に手を伸ばし、虚しく空を掴んだ手は震えていた。

昨夜別れを決めてから、彼女の車が消えるまで、一粒の涙も見せなかった香織

その気丈な振る舞いに頭が下がった。

今、彼女は車の中で涙を流しているのだろうか。

付き添いに気を使い、まだ耐え続けているのではないだろうか。

香織が涙を流すまでは、僕が泣くわけにはいかない。

彼女が声を上げて心を開放するまでは…

僕は…泣くわけには…いかないんだ。