「僕は彼女を護りたい。たとえ香織が他の誰かのものになっても、傷つけられる事無く幸せでいてくれればそれでいい」
顔を上げると目の前には眉間に皺を寄せ苦しげな表情をする父さんがいた。
「辛いぞ。…彼女が苦しんだり、悲しんだりしている時に手を差し伸べることも出来ず、ただ見守ることしか出来ないんだ。」
香織が悲しんでいる姿を、何も出来ずただ見つめることしか出来ない。
それを思うと臍(ほぞ)を噛む思いだろう。
「香織ちゃんにいつか好きな男が出来て、お前を忘れてしまっても…ずっと見守り続ける事ができるのか?」
僕を忘れた彼女をずっと見守り続ける。…それはどんなに苦しいことだろう。
香織が僕以外の男にあの笑顔を向け、その男の為に尽くす。
柔らかな唇で僕以外の誰かを呼び、口付ける。
僕だけのものだったはずの全てを、知らない誰かに奪われてしまうのだ。
それは気が狂いそうなほどに苦しいことだろう。
…それでも
「彼女の笑顔を護ると決めたんだ。
そのためにどんなに苦しむことになっても構わない」
僕の決意に、父さんは「そうか」と小さく呟いた。



