【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~

父さんは大きく溜息を吐き、ソファーに沈み込むように身体を預けると天を仰いだ。

母さんは手にしたコーヒーカップを取り落とした事にも気付かず僕を凝視している。

「二人で決めたのか?」

「…うん」

「なあ、廉。俺も雪も、廉には一族の者との結婚は望んでいないんだぞ。
お前が本当に好きだと思う娘と恋をして、いずれ結婚することが出来ればそれが一番良いと思っているんだ」

「僕は香織と別れても婚約なんかしない。
おじい様の思い通りになるつもりは無いよ。
パーティの席でハッキリと言うつもりだ」

「婚約を破棄するのなら別れる必要はないだろう?
それとも香織ちゃんが別れたいと言ったのか?」

「いや、そうじゃない。……でもこうするのが彼女にとって一番安全だ」

「後悔しないのか?」

「……僕が怖いのは彼女が再び危害を加えられることだ」

ギュッと拳を握り硬く瞳を閉じる。

瞼の裏に香織の笑顔が浮かんだ。