「廉君? そこにいるの?」
プールサイドを覗くように顔を出した香織の声に、ハッと我に返った。
フリルのついた真っ白なネグリジェの裾がフワリと風に揺れる。
部屋から漏れる灯りが一瞬その背に金の羽を広げ、月明かりが彼女の頭上に天使の輪を作る。
闇をも照らす美しさで微笑む僕だけの天使がそこにいた。
瞬きをすることも忘れ心奪われる。
この姿を一生忘れないようにと瞳の奥に焼き付けた。
右手を差し伸べると、自然にその手を取り僕の膝に座る香織。
石鹸の香りのする彼女をギュッと抱きしめると、何も言わず僕に身を預け抱きしめ返してくれる。
愛しい…と、心から思った。
「…好きだよ、香織」
「…好きよ…大好き。廉君」
微笑む彼女は何もかも悟ったように僕の瞳を受け入れる。
あれほど悩んで探した言葉は、必要ないのだと感じた。
何も言わなくてもわかる。
これまでなら心地良かった筈の事が今はこんなにも辛い。
こんな風に心を通わす事ができる相手に、再び出逢うことなど生涯かけても出来ないだろう。



