おじい様
あなたはどこまで人を不幸にするつもりなのですか。
一族結婚の輪廻は誰も幸せになどしない。
なのに何故、そうまでして濃い血を求めなくてはいけないのか。
望まない結婚の為に、何故愛しい人を傷つけなくてはいけないのか。
僕は…あなたを許さない。
香織を傷つけたこと。
僕から彼女を奪おうとしたこと。
その代償がどれほど大きなものか
いつかその身で思い知っていただきます。
決してあなたの思い通りになどさせません。
激高するでもなく、深々(しんしん)と心に積もりゆく怒りは、どこまでも静かで僕を冷酷にする。
香織を護るためなら
今の僕はどんなことでもするだろう
森からの風が心地良く頬を撫で、水面を揺らす。
水に浮かぶ銀の月が、一瞬星を散らしたように揺らぎ、また美しい姿に戻ってゆく。
二人でならば美しいと感じる風景も、今はただそこに在るものにすぎない。
香織がいなければ、この世は風も月も存在しないただの闇でしかなかった。



