【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~


おじい様

あなたはどこまで人を不幸にするつもりなのですか。

一族結婚の輪廻は誰も幸せになどしない。

なのに何故、そうまでして濃い血を求めなくてはいけないのか。

望まない結婚の為に、何故愛しい人を傷つけなくてはいけないのか。


僕は…あなたを許さない。

香織を傷つけたこと。

僕から彼女を奪おうとしたこと。

その代償がどれほど大きなものか

いつかその身で思い知っていただきます。

決してあなたの思い通りになどさせません。


激高するでもなく、深々(しんしん)と心に積もりゆく怒りは、どこまでも静かで僕を冷酷にする。

香織を護るためなら

今の僕はどんなことでもするだろう

森からの風が心地良く頬を撫で、水面を揺らす。

水に浮かぶ銀の月が、一瞬星を散らしたように揺らぎ、また美しい姿に戻ってゆく。

二人でならば美しいと感じる風景も、今はただそこに在るものにすぎない。

香織がいなければ、この世は風も月も存在しないただの闇でしかなかった。