【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~

「今、救急車を呼んだから安心しろ。あいつらの事は警察に任せよう」

半ば放心状態で頷くと、彼は手際よく安田さんの止血をしていった。

歳の頃はあたしより少し上ぐらいに見えるが、もしかしたらお医者様の卵か何かだろうか。

余りの手際の良さにそんな事を考えながら、真剣な表情の綺麗な横顔を見つめた。

「まったく、とんでもない奴らだ。
昨日あいつらは俺の彼女をナンパしやがってさ。
彼女が断ったら逆ギレして拉致しようとしやがったんだ。
俺が気付いて何とか食い止めたんだが、彼女の鞄を引ったくられちまってさ。
今朝からずっとあいつらを探していたんだ。盗まれた鞄には大切な指輪が入っていたんでね」

「指輪? それで、見つかったんですか?」

「いや、まだ探していないんだが…奴らの車の中にまだあると思う。
昨日の今日ですぐに捌(さば)けるような代物じゃないからな」

「じゃあ、警察が来る前に探してください。
警察が押収した後に返して貰うのは手続きが面倒ですよ」

「ああ…だが、今はこの人の応急処置が先だ」

「じゃあ、あたしが探します。どんな鞄ですか?」

あたしは彼の鞄を探して彼らの車の中を物色した。

車の中には明らかに暴力団が絡んでいる事を匂わせる、銃刀法や薬物法に違反するものがあり、あのまま彼らの手に堕ちていたら、あたしはどうなっていたのだろうと、ゾッとした。