カーブをくねりながら山道を登りきると、そこにはやがて高級別荘地が見えてくる。

後10分ほどということは、その少し手前の分岐点辺りに差し掛かっているのだろう。

その辺りまでは廉君のお母さんと毎朝畑へ行くときに、良く通る道だ。

自分の生活圏内に、帰ってきた。と、ホッとする自分に、別荘が既に我が家のように感じていることに気付いた

あたしを温かく迎えてくれた廉君のご両親も、婚約者の事を知っているはずなのに、どうしてあんなに歓迎してくれたんだろう。

『ねぇ、香織ちゃん。こんなボンクラ息子だけど、これからもよろしく頼むね?
君に捨てられたら、きっとこいつボロ雑巾みたいになっちゃうからさ、見捨てないでやってくれるかい?』

ニッコリと笑ってそう言った、理事長先生の顔を思い出す。

あれは社交辞令だったんだろうか。

いずれは別れなければならない恋人に、せめてひと夏楽しい思い出を作ってあげようという配慮だったのだろうか。