【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~

でも香織に出逢って母さんの気持ちが少しだけ解る様になった。

母さんは、その人を心から愛していたのだ。

記憶を失っても、夢であんなにも幸せに微笑む事が出来るほどに…

目覚めたときに覚えていなくても、毎日夢に見るほどに…

きっと…幸せな日をその人と生きていたのだと思う。

今なら、母さんが記憶を取り戻しても、祝福してあげる事が出来るかもしれない。

香織と出逢って、そんな風に思えるようになった。


夢を見る母さんは、いつだってとても幸せそうで、夢から呼び戻すのが可哀想になる。

目覚める一瞬前に、硝子の欠片のような綺麗な涙を流す姿は、とても儚く哀しげだ。

もし僕が、香織の記憶を失ってしまっても…

きっと毎夜夢に見て、心はその影を追い求めるだろう。

今の僕にはその気持ちが痛いほど解るから…

愛した人の記憶を失うほど哀しいことは無いと思うから…

出来ることなら、母さんの幸せだった記憶を取り戻してあげたい。

たとえ、それで母を失うことになっても…

幸せになって欲しい…

そう思う時があるんだ。