いつもの道。
いつもの角を曲がると、いつもの通り君がそこにいる。

振り返って満面の笑みで僕を迎えてくれる香織。

そんな彼女が愛しくてキスを落とし、頬を染める姿を見て頬が緩みっぱなしの僕。

それが僕たちの当たり前の朝の光景。


……だけど、今朝は少しだけ様子が違っていた。

「――っ!香織」

声をかけようとした僕の目の前にいたのは、真っ赤なポルシェの車体に押し付けられ逃げ場を失い途方にくれている香織の姿だった。

僕の声に振り返った瞳には大粒の真珠。

さくらんぼのような唇は噛み締められ血色を失っている。

いつもなら真っ直ぐに僕に向けられ満面の笑みを浮かべてくれるその瞳が、怒りと不安に染まっていた。