「芹ちゃん、手冷たくない?」
いつもの電車が停まる三番ホームの水色のベンチで、竹内くんが言った。
あと10分足らずでやってくる電車に乗るつもりの学生や会社員が溢す白い息が、寒さを視覚的に伝える。
「あ…うん。今日に限って手袋学校に忘れちゃったみたい」
あんなに準備万端だったのに、どうやら手袋はロッカーに置いてきてしまったみたいで。
今シーズン一番の冷え込みで、雪も降るかもって天気予報で言ってたのになぁ…
「まじ?ちょっと待ってね」
同じベンチなんだけど、恥ずかしくて少し距離を置いた隣に座っているわたし。
って言っても、わたし的には全然距離なんてないのだけれど。
同じベンチに座っているということだけで十分なほど。
「あれっ…ねぇなー。どこやったっけ…」
50センチ程先で、竹内くんがポケットをあさっているのが見える。
何探してるのかな。…あ、諦めた。
ポケットを探すのを諦めた竹内くんは、いきなり思い付いたような表情をして。
「すぐ戻ってくるから待ってて」
そう言って席を立ちました。

