大きく息を吸い込む。
ー覚悟はできたー
柵を跳び越え1歩踏み出すだけで落ちてしまう程の所に立つ。
「ごめん…ごめんね…翔雨…。私…もう疲れちゃったよ…」
学校でいじめを受けてる訳でも、家で虐待を受けている訳でもない。
それでも私は…
「貴方のいない世界じゃ、生きられないよっ…」
溢れる涙は止まることを知らない。
「死んだら楽になれる…?貴方に逢える…?」
___流華…俺の分まで生きて_______
「約束…守れそうにないな…ごめんね…翔雨…」
翔雨だけじゃない。私を産んで育ててくれた両親、いつも私に元気をくれた弟の流羽(るわ)、友達想いな柚花、いつでも温かく見守ってくれた京哉。
「皆…ありがとう…さよなら…」
最期の一歩を踏み出そうとする。
刹那、強い風と共に誰かが私の死を引き止めた。
「待てっ蒼園っっ!!」
その声に振り向く間も無く、彼は私の身体を持ち上げ、安全な柵の内側へと降ろした。
「何してんだっ!まさかお前、死のうとしてたんじゃないだろうな!?」
改めて彼の顔を見ると、予想外の人が立っていた。
「い…生凪…君…?」
生凪 太陽(いくなぎ たいよう)。同じクラスで、超がつく程イケメンで、賢くて、いつも成績は学年トップ。(ただ、金髪にピアス・ネックレスなどのアクセ類、服装の乱れなどが残念)だけど授業を受けているところは滅多に見ない。
「生凪君はどうしてここに?」
「いつもと同じ。サボり」
なぜ授業を受けているところを見ないのか、それは生凪君が超がつく程のサボリ魔だからなのだ。
「…そっか…」
「まぁ、これも何かの縁だ。オレのことは太陽でいいから、蒼園のことは流華でいい?」
「全面拒否します。」
「即答ってひっど…で、なんであんな所にいたんだよ流華」
「(結局呼び捨て…)ちょっと外の空気を吸いにきただけ」
そう言って乾いた笑みを零した。
もちろんそんなことじゃない。
翔雨のいない世界で生きることが辛かったから、死のうとしてた。
「…嘘だろ?」
「え…」
他人に話すまいと思っていたが、私の嘘はあっさり見破られてしまった。
…私って嘘つくの下手?
そしたら太陽はくくって喉を鳴らして笑った。
あ…翔雨と同じ笑い方…
「お前…わかりやす過ぎだろ…くくっ…」
「ちょっ…どんだけ笑ってんのよっっ」
前言撤回。全然違う。
「クラスの優等生さんが、そんだけの理由で授業サボるかなぁ~?」
そう言って太陽は無邪気に笑った。
太陽と一緒にいると、胸の中でつっかえていたものがスッと消えていく気がした。
私…笑えてる…?
「感、鋭いね」
「ホラ、やっぱり!!」
『オレ天才~』とかなんとか言って、一人で喜んでいる太陽はまるでガキだ。
私は小さく笑い、未だに喜んでいる太陽に話しかける。
「ねぇ、太陽」
「おっ。やっと名前で呼んでくれた!どうした?」
他人にアレを話すのはいつぶりかな…なんて思いながら口を開く。
「ちょっとだけ、私の昔話…聞いてくれる…?」
___晴れ渡る青空の下で語られるのは
暗闇の夜の悲劇________
