ロックスター、わたしの願いも叶えて。
いくらなんでも寒すぎないか、と隣に座る君が顔をしかめた。
球技大会、体育館。
ヒーターなんかないしがない公立高校の体育館は、いくらなんでも寒すぎる。
ボールが弧を描いた。
運動しているひとたちは熱に浮いていて、わたしたちとは正反対だ。
「ねえ、聞いてんの。」
「聞いてるよ。わたしだって寒いし。それよりそっちのほうがあったかそうじゃん。マフラーなんか巻いちゃってさあ、ずるい。」
「持ってこないおまえが悪い。」
「それ言われたら言うことないし。」
寒い。
けど、君が隣にいるせいか微かにあたたかい。
恋に浮かされる私の熱と、運動している彼らの熱は、どちらが高いのか。
「ていうか俺次試合だしね、バスケ。」
「おー。がんばれー。」
「おまえぜんっぜん頑張れって思ってねえだろ!ふざけんな!」
笑って君が言う。
「あは、だってあれでしょ、頑張れって言ったって頑張らないんでしょ。」
「まあな、だって俺の指は…」
「ギターを弾くためにある、でしょ?」
「おい!それ俺の決め台詞!!」
何回も聞いた言葉の続き、聞かなくったって分かる。
高校生になると同時にギターを始めた君は、何かある度にこの言葉を言うようになった。
もう何回聞いたことか。
「将来はー、ロックスターになるんでしょう?」
「なるよ。絶対。だからバスケなんてしてる暇ないってのに。」
ロックスター。
夢みたいな夢だけど、叶えられるんじゃないか、君なら。
…なんて思ってしまうのも恋ゆえなのかもしれないけど。
「次チーム、コート入ってー!」
笛が高らかになる。
呼び出しのコール。
「うわあ、呼ばれた。」
「おー、いってらー。」
「はい、じゃあこれ。」
持ってて、と首に巻かれたのは、君のマフラー。
試合開始の笛と共に弧を描くボール。
まるで流れ星みたいだ。
さっきよりも体温が高い気がするのは、君の熱が微かに残るこのマフラーのせいだろうか。
君がパスを送る。
流れ星、君はロックスター。
どうか、わたしの願いを叶えて。
end