夏は、君と共にあった。
街に出るにはローカル電車で30分、そこから乗り換えてまた30分。
大人が言うには不便なところ。
だけどここが僕らの世界だった。
「うあー!あちい!!」
海沿いの駄菓子屋の前、防波堤の上に腰掛けて君が言った。
「もう一学期も終わりだもんねー。そりゃ暑いよ」
返す。
「あーー早かったなあ。暑い。まじで暑い。なんか冷たいもん食いたい。」
返ってくる。
それだけが夏の暑さ以上に、あたしの中では熱い。
となりの家に住んでたあたしたちは、田舎ってこともあって小さいころからずっと一緒。いわゆる幼馴染。
想いを伝えるのはそう難しくないけど、わざわざこんなあっつい中でわざわざ自らの体温を上げるようなことはしたくない。
…っていう、いいわけ。
ただ単純に、壊れるのが怖いだけだ、あたしは。
小さい頃から築き上げたこの関係が。
「ってかそこに駄菓子屋あるんだし買えばいいじゃん、アイスとか」
君は青空を仰ぐ。
「金持ってねえーーー!!」
「バーーカ!ふふ、あたしも暑いからなんか買ってくるー!」
「は、なんだよずりぃ!」
いいでしょ、と言いながら防波堤を飛び降りる。
なんだよー、もう、と君の声が聞こえた。
手にとった二本のラムネは、君への賄賂か否か。
「はい。」
「おーおかえりー、…え?」
「あげる!熱中症にでもなられたら困るからね!」
賄賂か、否か。
「え、まじで!?やったー!」
嬉しそうにラムネを飲む君を横目で見ながら、自分のラムネの栓を開ける。
「あ!これあげる。さっきのお礼?」
差し出されたのはチョコレート。
「え、これ絶対溶けてるでしょ。」
案の定、開けてみると溶けかけていて。
「ほら、やっぱり溶けてるー」
呟くと君がこちらを覗きこんだ。
「あ、ほんと、だー…」
交わる視線、間近に君の顔。
沈黙。
「あの、さー…ずっと前から、」
幼馴染。
この壁を溶かすのは、夏の暑さか、君かあたしか否か。
さてどっちだ?
end