君が言うのなら
「僕はいつでも君を一番に考えるよ」
あらそう、と彼女は微笑んだ。
「だからというわけじゃないけど」
僕は続ける。
「結婚してくれないか」
これが僕にとって、精一杯のプロポーズだった。
3日間考えに考えて、やっとひねり出したプロポーズの言葉。
他にも、君と一緒に毎日散歩がしたいだとか、君の写真でデスクトップを埋め尽くしたいくらい好きだとか、君の味噌汁が毎日飲みたいという古風なものも考えたりした。
だが、すべてどこか気味悪く、こんなんじゃ彼女はOKするどころか逃げ出してしまう。
それらに比べたら、このプロポーズは随分と上出来ではないか。
そう自信満々でプロポーズに挑んだものの、彼女の反応は淡白だった。
「あらそう。いいじゃない。」
彼女は、初めてのデートでお昼ご飯にパスタはどうかと聞いた時のような反応だったのだ。
僕の3日間考えに考えたプロポーズは、あっさりと承諾された。
それにしたって、問題はここからだ。
多分、僕はプロポーズの言葉を間違えてしまったんだろう。
朝昼晩、ご飯は毎日彼女の好物。たまに僕が、「たまにはペペロンチーノが食べたい」なんて言うと、彼女は決まってこう返す。
「あら、あなたは私のことを一番に考えてくれるんじゃなかったの?」
それにしたって、毎日3食カルボナーラは飽きる。
彼女は続けた。
「カルボナーラを好物にしたのはあなたよ。初めてのデートの味が忘れられないの。」
僕は、初めてのデートの昼食選びも間違えてしまったらしい。
でも僕は分かっている。
「ねえ、来週末はお休みよね?」
ああ、と返事をすると彼女は言った。
「水族館に行かない?あなたとの2回目のデートで、初めて手を繋いだ場所よ。」
彼女は、こうすることで僕への愛を示している。
私はあなたのことを全て覚えているのよ、と。
一種の愛情表現なのだ。
僕は分かっている。
「ああそうだね。僕も覚えているよ。行こう。」
彼女が、僕からの愛が薄まってないかを確認していることも。
僕は知っているんだよ。
幾千の愛を語るよりも、君にはこれが一番なんだろう?
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あなたは私のことばかり。
でも、私に夢中になりすぎないでね。
もう少しで100回目のデートでしょう?
「あなた、100回目のデートはどこにする?やっぱりカルボナーラは食べたいわよね。水族館もいいわ。」
「でも、そうね、たまには。」
「ペペロンチーノもいいかもしれないわね。」
私はあなたのことばかり。