行き交う人の足音に誰かが近付いて来る気配を感じた。

『かなり待たせてしまったね。ゴメン!

クリスマスに残業はないよなぁ』

(えっ?あなたなの?嘘でしょ?)

『なんて顔してるの!あぁ もしかして怒ってる?』

(えっ?あの時と同じ。過去に戻ったとか・・夢?

それとも今までの出来事が夢だったの?)

『お・・怒ってなんかいない!

こんなに嬉しいこと生まれて初めてだから』

『おまえ大丈夫か?

頼むからこんな人混みの中で泣かないでくれよぉ

ホントごめんよ』

『いいの もういいの 会えただけで嬉しい』

『遅刻したお詫びに「タイユバン」で

お食事でもいかがですか?お嬢様』

(同じだわ。あの時と)

『えっ?ええ』

『予約してあるんだ。急いで行けばまだ間に合う』

(眩しい笑顔と彼の腕の温もり・・・

あなたとこうして一緒に歩けるなんて夢のよう。

夢なら永遠に覚めてほしくない)

レストランではクリスマスツリーが輝き

テーブルに飾ってあるキャンドルが

雰囲気をいっそうひきたてていた。

食前酒を選びながら、彼が無邪気に言った。

『今夜はホワイトクリスマスだから

白ワインの気分だけど、もう少し華やかなほうがいいかな』

【ではキール・ロワイヤルなど いかがでしょうか?】

(初めて飲んだ大人の味・・・あの時と何もかもが同じだわ)

『クリスマスのスペシャルコース食べようか?』

( そうよ あなた、たしか鶏肉か゛嫌いなのに

メイン料理のターキーが鶏肉だって知らなくて食べちゃったのよね)

『それ・・・雑誌で見てすごく食べたかったの。どうして知ってたの?』

『あたりまえだろ・・・今日の僕はサンタクロースなんだから』

【メインディッシュでございます】

『期待どおり すごくおいしいね』

『うん、とっても美味いな』

(笑・・・・・)

『何で笑うんだよ』

『あなたが今、おいしいって食べてるのって鳥肉だよ・・・七面鳥』

(あの時はターキーのこと黙っていたけど・・・・・)

『!!!!!!』

(そうか・・・あの時とすべてが同じではないのね・・・・!!

もしかして 今夜ずっと あなたといれば事故に遭わないかも)

『信じられない 鶏肉ってこんなに美味しかったんだな!』

『でしょ~これからは食べられるでしょ?』

『ああ 君のおかげだ』

『感謝してよ』

(あなたと、ずっとずっとこうして一緒にいたい・・・)

レストランをでると、街はすっかり雪色の銀世界・・・

人通りの少ない裏通りを歩くと、

しんしんと降り積もる雪の音が幻想的な音楽のように聴こえた

(次はたしか・・・そうよ この瞬間に戻れるなんて信じられない)

『結婚・・・しようか?』

『!!えっ?』

『僕たち、結婚しようよ』

(私・・・あの時返事できなくてごめんなさい、ずっと後悔していたの

あなたに 会いたくて 会いたくて

いつから待っていたのかも思い出せない

あなたがいなくなってからの私の記憶・・・

ただひたすら後悔して待ちつづけた日々。 

他のことは何も思い出せない・・・

あの日も

ここでこうしてあなたと向かい合って言葉を探していた。

どう返事していいのか解らなくて逃げ出してしまったこと

後悔しつづけてた。

今夜あなたに会えた奇跡は

神様がもう一度私にチャンスを与えてくださったの?)

『・・・・・。』 

言葉より先に涙が溢れて、何回も深く頷いた。

彼がてれくさそうに差し出した

赤と緑のリボンで飾られた小さな箱。

『開けてみて』

美しいダイヤモンドが光り輝いていた。

『ありがとう。言葉にできないくらい嬉しい!!

あ・・・・アイシテル』

『ありがとう ・ ・・・

この日を待っていたんだよ

君と同じように・・・

あの日、渡せなかったから・・・』

『えっ?』


ドーン!と耳をつんざくような音が向こうから聞こえた。

『君の記憶の中では僕だけが事故で逝ってしまった』

『まさか・・今の音』

彼が頷いた。

『あの時、君はショックで気付かなかったんだよ。

僕たちは、2人で大型トラックの下敷きになって』

『え??まさか・・・』

『僕たちは、一緒に逝ったんだよ。

でも君の魂だけがここに・・・

だから迎えにきたんだ』

彼女は初老の男から言われた言葉を思い出した。

【もし君の望みが叶ったら、

君自身の最も重要なことに気付かなければいけない】

彼女の不安げな表情が穏やかになってゆく・・・

『私が気付かなかったから、今まで離れ離れだったのね』

『僕たちは時間の束縛から解放されたんだよ。永遠に。

これからは、ずっと一緒だ』 

彼女の手を取ると強く抱きしめた。

彼女は身も心も安らぎを感じていた。。

二人の姿は誰にも見えることはない

ひとりの初老の男を除いては・・・・。

その男だけが二人を見守っていた。

そして深く頷くと粉雪の中に消えて行った。

8年経って ようやく再会した二人は

クリスマスイルミネーションが消える頃

天国へと旅立って逝った。 

そして新しい一日が始まる。

二人の去った後には

街路樹に積もった雪が風に舞い

ダイヤモンドの如くキラキラと輝いていた。