雪は昼過ぎから降り始めて やむ気配もない。    

ラジオでは8年ぶりのホワイトクリスマスだと放送している


 

眩いばかりのイルミネーション  人々の笑い声・・・

恋人や友達と過ごす人、大切そうにプレゼントを抱え

家路を急ぐ人・・・。

クリスマスソングのながれる賑やかな街角に、

ひとりの女性がベンチに座って空を眺めていた。

物悲しそうな美しい横顔は誰の目にも留まることがなかった・・・

一人の初老の男を除いては・・・。

『傘も差さずに  風邪をひいてしまうよ』

『おじさんだって、差してないじゃない』

女性は街の雑音にかき消されてしまいそうなほどの小さな声で答えた。

『(笑)若いお嬢さんがこんな雪の中 傘も差さずに空を眺めいてるなんて、

少々気になったものだから』

『大切な人を待っているの』

『恋人かね?』 

女性は小さく頷いた。

『来るはずのない人。もう何年も前の事だけど・・こんな真っ白い

クリスマスイヴの夜、車に跳ねられて・・・・

もう一度 あの日に戻れたら・・・』

『戻れたら?』

『愛してるって言いたかった・・・後悔してる。

最高に幸せな時間を過ごしたその夜に、彼の時間だけでなく

私の時間も止まってしまったみたい。

今日まで、どう過ごしてきたのかもわからないの』

女性は、今にも泣き出しそうな表情で空を見上げ

冷たい雪を肌で感じたように、そっと瞳を閉じた。

『彼は、君にそんなに想われて幸せだな』

『馬鹿よね。死んだ人を待っているなんて・・・』

『そうだな・・・・こんな美しいイヴの夜には、奇跡が起こっても

不思議ではないかもな。君は夢を見てるのかもしれないよ』

『物語のようにマッチに火を点けると欲するものが見える・・・とでも?』

『(笑)さあ どうかな・・・幻とは空想が創りだした現実なんだと思えば

不思議でもなんでもないものだよ。   

もし君の望みが叶ったら、君自身の最も重要なことに

気付かなければいけない。』

『私にとって最も重要なこと?』

横を向くと、男はもういなかった。