『いや、でも』
俺は眉をひそめた。
いくらなんでも難しいんじゃないか?
多少騒がれていたとしても、名前さえわからない奴のこと普通は覚えていない。
「それにシズルの観察力はやたら鋭い。
それで逆に気付かなかったという方が俺は有り得ないと思うね」
あの彼でさえも一目置くほどなのか。
あの外見と雰囲気からして鋭いなんていう言葉は似つかわしくないけど。
俺はそのまま彼女のことを思い出した。
背は150センチくらい。
髪は艶やかな黒で膝ぐらいまで長く伸ばし軽くウェーブがかっていた。
……、寝癖かな。
前髪から覗く瞳が俺を見つめる。
唇が柔らかく弧を描いて、笑った瞬間たまらなく心を焦がす。
あぁそうか、俺は彼女が好きだ。
……、やばい。
今、にやけてたか?
口元を手で覆い隠して恥ずかしい気持ちがバレないように平静を装う。
「お前わかりやすいなー」
『……、』
遅かった。
「でも、いい目してるなぁ。
シズルはかなり天然入ってるから手強い、覚悟した方がいいぞー。
更に上っ面でだまされてくれない所があるから、なかなか上手くいかない」
チトセも顔がいいから女で苦労しなかっただろ?なんて至極楽しそうにいう彼。



