「…さっきから褒められてるのか非難されてるのか理解に苦しむんだけど」

静かな瞳を向けてくる海斗は、けれど決してしるふの発言を咎めてはいない

「でも間違ってはいないでしょう?」

「もちろん」

そうつぶやく海斗は満足げだ

海斗がくつくつと音をたてはじめた鍋の火を止める

途端に訪れる静寂

「……あいつらにとって、結局のところ俺は黒崎病院医院長夫人っていう立場を与えてくれる存在にしか過ぎないからな」

だからどんなに見え透いた嘘もつく

それで海斗が手に入るのなら、彼らは気にしない

静寂を破った海斗の声が、静かに消えていく

広い背中がとても遠くに感じた

「……襲うぞ」

音もなく背中に感じた温もりは、4年前から変わらない

「いいよ」

海斗の発言に小さく笑みを宿したしるふの声が、振動とともに伝わる

「珍しいな、朝なのに」

華奢な手に自分のそれを重ねれば、自然と指先が絡まる