「一つだけ、お聞きしたいことがあります」

くっと腹に力を入れないと声がかすんでしまう

泣きそうなうるんだ瞳をしっかりと見返して

「何週目、ですか」

「えと、6週目に入るところです」

「……そうですか」

そっと背筋を伸ばす

「宮本さん、確かに彼は今出張中でどこでどんな関係を持とうが、私にはわかりません。でも、少なくとも私の知る彼は二股なんて器用なこと出来るほどプライドのない人じゃないですから」

「私の娘が嘘を言っていると」

「いいえ、ただ、そういうお話はきちんと彼を交えて、彼が直接私にすることじゃないでしょうか」

信次がふと視線を投げてくる気配がする

その何も言わずにそばにいてくれる姿勢が、海斗を想わせて少しだけ泣きそうになる

「それと、私は彼からそういう話が出るまでは彼を信じます。今日今しがた会ったばかりのあなたたちより、私が信じるべきは、彼ですから」

そろそろ医局に戻らないといけないので

腰を浮かして会釈をしてから医院長室を後にする

パタン、と音を立ててしまったドアに寄りかかり、ふーと息をつく

無意識に手をやったのは、首にかけられたシルバーリング

「海斗」

そっとつぶやいた声は、広い廊下に消えて行った