直感的な勘からそう思った。


でも、



「走るってダルいんだよね〜…」



あぁなんだか、
逃げるのも臆病になってきた。


サッと身を捩り後ろに退く。


するとナイフを持ち、
フゥフゥと興奮気味の若い男の姿が見えた。



「おい!!昇!!お前よくもっ!!」



血が上った頭が、醒めることはないだろう。


そう思うほど、
男の顔は真っ赤に染まっている。


「………あー、あー。ゴホン!」



わざとらしく咳を吐く。


少し面白いことを思い付いちゃったんだ☆



「なんだよ…。今更なにか用か?」



それは数年前に、
『昇』と言う存在しない少年を
演じた時と同じ声色。



「――しかし、すみませんが、
俺は昇じゃないんです」



「!!??」



次は今日の仕事の為に
少女相手で何度も使った青年の声。



明らかに動揺の走るその顔に、
ケタケタと笑う。



「――昇さんは死にましたから」



ニコリと笑うと今度は真っ青になる男の顔。


忙しいな…、この人。


なんて心の中で突っ込みながら、
ゆっくりと男の元へ歩み寄った。