「こら、ミヤ。あんまり離れるなよ。」

「大丈夫だって。ハルトじゃないんだから。」

「えぇ!? ミヤさんなんで俺がよく迷子になるって知ってるんですか!?」

「うん今お前自分で暴露ったね。俺そこまで言ってないしね。」

「ハルは別に自分の国だからいいけど、ミヤは迷子になられると困るからね。」

「自分の国だからいいってなんですかそれ!?」

「だから迷子とかならねえっつってんだろ。」

「物珍しいものがあったらふらふら行っちゃいそうだし。」

「うっさい年下のクセにお前。」

「その年下の前で泣いたクセに。」


 ノアは意地の悪い笑みを浮かべ、ミヤコを見下ろす。

 ミヤコは思わず目を逸らした。それを言うかキサマ。

 会話の途中でハルトはまたもやお菓子の店に走って行ったので、最後の話は聞かれずに済んだのが幸いである。聴かれていたら弁解が面倒だった。

 ミヤコは言い返すに言い返せず、とりあえずこの気恥かしさと居たたまれなさを拳に詰め込んでノアをド突き、それからスタスタとハルトの居るお菓子の店へ歩いて行った。

 その後からノアがやってきて、ミヤコに「殴んないでくれる。」と文句を言う。「足が出なかっただけマシだと思え。」とミヤコは言い返しておいた。

 お菓子を試食していたハルトは二人の会話が聞こえていなかったらしく、「どうしたんですか?」ときょとんとした顔で首を傾げている。

 お菓子を頬張ったままのその姿が妙にツボに入った二人は同時に吹き出した。

 ノアのその嘘偽りのない笑みを見て、ハルトは心底嬉しかったのだろう。

 突然ぷるぷると震え始めたかと思えば、「ノアー!」と双子の名前を呼びながら飛びついてうれし泣きする始末である。

 急に飛びつかれたノアは最初こそ「!?」という表情だったが、自分が笑ったことを思い出したのか、諦めた顔でもう一度頬を緩めた。

 ミヤコはそんな双子が微笑ましくてたまらない。

 出会ってまだ一日しか経っていないというのに、なんだかこの生活が、当たり前だったような気分になってくる。

 それくらい、居心地がいい。