使ったことのない食材もあったが、なかなかに上出来である。

 自画自賛をしながら、けれどノアも美味しそうにあれこれ食べてくれるので、その様子を見ているだけでも腹いっぱいになるような気さえした。

 昨日の宴の時に、ノアが『ミヤはなんでも美味しそうに食べるね。』と言っていたのを思い出す。あの時のノアもこんな気分だったのだろうか、とミヤコはなんとなしに思った。

 きみが美味しそうにご飯を食べているのを見るのは、自分も幸せになるなあと、思ってくれていたらうれしい。



 綺麗に平らげた朝食の後片付けをして、二人してソファに座る。

 さて何をするか、と話を始めたところで、階下で扉がノックされた。ミヤコとノアはその音を聞きつけ、顔を見合わせる。

 どちらも表情が少し、険しい。


「……誰だろう。」ミヤコは階下を見やるようにして言う。「見てくる。」

「いや、」剣を片手に向かおうとしたミヤコを、ノアが止めた。「いい。」


 俺が出る、と言ってソファを立ったノアは、その足で部屋を出ていく。

 ノアが住んでる館であたしが出るのもおかしいか、とミヤコは不意に当然のことを思い出して苦笑した。

 しばらくソファの背に横向きに頭を乗せ、階下の音を探った。もしも何かあれば飛び出して行けるようにと。

 しかし、何やら話し声が聞こえたと思えば、そのまま足音が階段を上ってくる。しかもひとつじゃない。

 もしや、と思ってミヤコが顔を上げたのと、ドアが慌ただしく開けられたのは同時だった。


「ミヤさんっ!」

「えハルトっ」


 なにゆえおまえが、と思っているミヤコなど知った事ではないというようで、ハルトはどういうわけかものすごくうれしそうである。

 そして今“ミヤコさん”ではなく“ミヤさん”と呼ばれたことにも気が付いた。

 そのあたりは考慮してくれているらしい。しかしミヤコは自分が一国の王子を呼び捨てにしたことに気が付いていなかった。

 それがうれしいというハルトの心情にもまた気づいていない。