「……とにかく、今日は禁止。」
「じゃあどうすんの。」
「俺が作る。」
「なにを。」
「朝ごはん。」
「…………。できるの。」
「なにその半信半疑っていうかもはや信じる気もない目線。やめろそんな目でこっち見んな。」
「まあ、作ってるとこ見たことないから信じろって言われても。」
「だったらなおさら作ってやろうじゃないの。」
という話の流れで今に至る。
ミヤコは慣れた手つきで料理を作っていく。
たまに見かけない食材があるため、「これなに?」とノアに尋ねるのは、母国ではないからしょうがないだろう。
ノアは物珍しそうにミヤコの料理をする姿を見つめている。まるで台所に立つ母親の脇から離れない子供のようにも見える。
それがおかしくて思わずクスッとすれば、ノアが途端に「なに」と傍から離れる。
なんでもない、と答えるとしばらくしてまた手元を見つめてくる。
この様子だと、誰かが料理をしている姿を見るのも、初なのだろう。
そして完成した朝食をテーブルに並べ、向かい合って座った時も、なんだか少し落ち着かないようだった。
街では一緒にご飯を食べたが、いつもひとりで居る館の中で誰かと朝食をとるのは初めてだったからだろう。
「……ノアは初がいっぱいだね。」
笑いながらひとりごちると、料理を眺めていたノアが「え?」と顔を上げた。
今の台詞はちょっといつも通りの口調すぎた、と思っていたので、聞こえなくて良かったかもしれない。
ミヤコは誤魔化すように「いただきます」と手を合わせた。
フォークを右手に持って料理を口に運ぼうとすると、ふと視線を感じて顔を上げた。
何故かノアが無表情の上にきょとんとした色を乗せ、ミヤコを見ていた。