朝の9時。
古い館に似つかわしくない、美味しい匂いがキッチンから漂っていた。
「ノア、それ取って。」
「ん。」
言われるがまま傍にあった調味料を渡すと、ミヤコは「ありがと」と短く礼を述べ、目線をフライパンに戻した。
どういうわけかミヤコが朝食を作っている現状。
というのも朝、ミヤコの目が覚めると隣にノアの姿はなく、どこに行ったのだろうと思いながら起き出してみると、二階の小さなキッチンで水を飲んでいる姿を発見した。
「おはよう」とミヤコが言うと、ノアは慣れない風に「……おはよ。」と返した。
なるほど朝の挨拶も初らしい。
そうなんだなあとミヤコが若干の感傷に浸ったのも束の間、ノアの左手に握られた袋を見て唖然とする。
袋の中にはパンがひとつ。まさか。
―find the Happy end―
――後編――
「……ノア、それ、朝ごはん?」ミヤコのまさかそんなという問いかけにも関わらず、ノアは平然とうなずいてみせた。「うん。」と。
「朝ごはん、それだけ?」
「? うん。」
ミヤコは無言でつかつかとノアに歩み寄り、その袋をひったくった。
「……他に食材は?」ノアはその問いの意味が解りかねるのか、少し眉を寄せて答えた。
「……あるけど。」
よしきた、とミヤコはパンの袋を握ったまま腰に手を当てた。
「今日はパンだけの朝ごはん禁止。」
「は?」
「栄養取れる時に取らないからそんな細いんだ。」
「ミヤに言われたくないし。」
「だって俺は、」女ですからとか言えなかった。
ミヤコは咳払いをして気を取り直す。