なんで泣くんだろうと思った。何もできない自分が悔しいのか、報われない双子が悲しいのか、周りの非道さに怒っているのか。

 そうかもしれない。

 だけどノアが、落ちていく心を救い上げようとしてくれるから。だからなおさら、涙が流れる。

 格好悪いなと思う。女であっても泣き顔は見せまいと努めてきたのに、男として振る舞っている今になって、その努力が水の泡になるなどと。


『王子様が泣き虫だと、国も泣き虫になりますよ。』


 先ほど、自分がハルトに投げかけた言葉を思い出す。

 そうだ、姫が泣いたら国も泣く。泣いていたって始まらない。自分の喉が渇くだけだ。

 ミヤコは何度も目を擦る。止まれ、涙。おまえが頬を伝ったところで、理不尽な世は変わらない。

 ノアはミヤコに、十分な言葉を贈ってくれた。もう泣くのはやめなきゃいけない。


「……ありがとう。」と、ミヤコは掠れた声で言った。「ノア、ありがとう。」

 するとノアの手がゆっくりと離れる。ミヤコは顔を上げた。

 目が合うと、ノアはふっと口元をほころばせた。


「そうやって、ありがとうって言ってくれたの、ミヤが初めて。」

「……そか。」

「あと、目の前で泣かれたのもミヤが初めて。」

「…………。」

「正直ちょっと戸惑った。」

「…………。ぶっ。」


 ノアの本当に困ったような顔に、ミヤコは思わず吹き出してしまった。

 子供の対応はあれだけ上手かったくせに、どうやら泣いている人間には耐性がないらしい。

 きっと無意識に抱き寄せて、なんとか慰めようとしていたに違いない。

 だから、ノアが次々にくれた言葉も、本当の気持ちなんだろう。

 そういうのすべてが、ミヤコはいとおしいような気がした。

 それがどういう感情なのか、いまいち理解できなかったけれど。