「おい、しっかり……」


 しろ、と言い終わる前に、若者から反応があった。「……うっ」と唸るような声が微かに聞こえてきたのだ。

 よかった生きていた、とミヤコは胸を撫で下ろす。

 若者は身じろぎし、ゆっくりとミヤコのほうへと顔を上げた。

 その顔は、若者というには少々幼いようだった。少年、と言った方が的確だろうか。

 色素の薄いさらりとした髪の毛、同じように色の薄く白い肌に、はっきりとした瞳。一見、少女のようにも見える容姿をしているが、よく見れば少年であることがわかる程度だった。

 少年はミヤコの顔を一瞥してから、重たそうに体を起こした。ミヤコは咄嗟にそれを支える。

「……あんた、」地面に座ってから、ようやく少年は口を開いた。「だれ。」

 だれ、と問いかけられ、ミヤコは一瞬戸惑った。

 この道をまっすぐ行った先にある、ひとつの国の姫である。と皆まで言ってしまうほど、ミヤコの頭は弱くない。

 少し考えてから、問いに答えた。

「あた」し、と言いかけてミヤコは一人称を改める。「……俺は通りすがりの、ただの騎士だ。」

 ただの騎士、というのもおかしかったかと気になったが、少年はミヤコの腰にある剣を横目に映し、「あっそ。」と興味のないような返答をよこした。

 自分から聞いておいてコノヤロウ。

 一瞬腰の剣を抜きそうになったが、それより前に少年が立ち上がろうとし、加えてよろめいたため、動いた右手はよろめいた体を支えるために役立った。


「ちょっと、大丈夫かよ。」

「……平気。」

「なわけないな。倒れてたわけだし、具合が悪いとか病気持ちだとか、そういう……」


 ぐう。

 ミヤコの言葉を遮ったのは、腹の虫の鳴き声だった。

 もちろんそれは、ミヤコの腹の虫ではなく。