「恩返し……?」

「うん。」


 うなずいてミヤコを見たノアの目に、嘘偽りは欠片ほどもなかった。


「ハルが俺のために、いろんなことしてくれたから。だったら今度は、俺が何か返そうと思って。」

「……笑ってあげるのが一番だと思う。」

「それは俺も思ってる。」ノアは自嘲する。「でも、俺が笑ったら、ハルは離れていくのかなとか考えて。」

「そんなことない。」

「うん。わかってる。ただの俺のワガママ。」


 この広い館にひとりって、結構、つらいから。

 そう付け加えて、ノアは視線を横へと流した。


「だから、どうやって恩返ししようって考えて、じゃあハルは危ない場面に出ることが多いから、守れるようになろうと思って。」

「……護衛?」

「うん。強くなったら、いつかその地位につけないかなってさ。」


 ノアの考えを聞いてようやくわかる、あの命中率の良さ。

 隠されて過ごす中で何ができるか考えた末の方法だろう、とミヤコは納得する。

 満足に運動もできなければ食事も贅沢にできない、秘密裏に強くなるためノアが選んだのは、何を投げても的を外さない、桁違いの命中率。


「……でも、」ノアは水の入ったグラスを指で弾いた。「そういうのが見張りにバレたみたいで。」

「見張り……!?」

「そう。館から少し離れたところに数人居るんだ、見張りが。」


 ミヤコは途端に血の気が引いた。

 つまり自分がここに来たことも、バレているということか。