「そしたら、今度は三人で行けばいいよ。」ミヤコはそう、言葉に願いを込めた。
「うん。」と、ノアもうなずいた。
そのまま水のグラスを見下ろし、至極穏やかな、けれどどこか寂しそうな笑みを浮かべた。
「……ハルには、すごく感謝してるんだけど。」口調が少し、辛そうだ。「ハルはきっと、気づいてないんだろうね。」
そうだろうねと、ミヤコも思った。
『俺じゃダメなんですっだって俺はっ――』
あの時ハルトは途中で言葉を切った。それにミヤコは気が付いていた。だけどそれを問いただそうとしなかった。
途切れた言葉の後に続く、重たすぎるであろう気持ちを、聞く勇気がなかったのだ。
きっとあの時、ハルトはこう言おうとしていただろう。
「――“だって俺は、ノアにとって邪魔者でしかないんだから”」
不意に、自分の思った言葉と重なる声が聞こえた。
ミヤコは弾かれたように顔を上げる。そこにはノアの困ったような色のうかがえる微笑があった。
「……って、ハル、言ってただろ。」
「…………。」
「なんとなくね、わかるんだよ。ハルがわかりやすい上に、やっぱり、双子だからかな。」
ノアは天井を仰いだ。
「バカだなって思うよ、ハルは。」それは独り言のようだった。「ハルが居なくなったら、俺の存在意義もなくなるのにね。」
その言葉には一体、どういう意味が隠されているのか。
答えはミヤコが考えるより先に、ノアが明かした。
「だって、俺はハルに恩返しするために生きてるんだから。」
え、と。ミヤコは耳を疑った。


