それからは飲み物をちびりちびりと飲みながら、今日の出来事を二人で話した。
あの時はどうだった、この時はこうだった、と二人で思い出話をしていると、それだけなのに不思議と楽しいものだった。
話をしていると次第に話題は逸れたりするもので、思い出話に花を咲かせた後は、ミヤコの居たと教えたラクサー国の話になった。
ノアはラクサー国に行ったことがないと言う。
ラクサー国だけでなく、他の国にも行ったことがないだろうとミヤコは心中で思った。
「どんな国?」とノアは隣国の話を聞きたがった。
ミヤコは自分の住んでいる国を思い出しながら、ノアに尋ねられるまま、自国の紹介を始めた。
街はここと違って賑やかというより、穏やかであるということ。
夜は宴などなくて、けれど灯りのともった街は綺麗で見応えがあるということ。
犯罪も少なく治安が良い。
国で採れる鉱石を使った装飾品はお土産に人気で、食べ物の味付けは少々濃いめで辛い。などなど。
「あと酒が美味いらしい。」と、宴で聞いた話しを冗談めかして言えば、ノアは「みたいだな。」と笑った。
ノアはミヤコの話す隣国をどのように想像したのだろう。水を手に取り、口をつけながら「良い国だね。」と小さく洩らした。
「ちょっと、行ってみたい。」
ノアの言葉に、ミヤコはぱっと顔を上げた。そして無意識の内にこう言っていた。
「おいでよ。」
言ってから我に返った。
そうだ、ノアにはいろいろと、目を背けたくなるような事情があったのだ。きっとここから出るのもそう簡単ではないだろう。
決して冗談で言ったわけではないが、冗談でも言うべきではなかったかもしれない。
ミヤコは思わず口を閉ざした。
その様子に、すでに気が付いていたらしいノアは、徐々に陰った表情に変わるミヤコに、少しばかり困ったような顔で微笑んだ。


