しばらくして部屋に戻ってきたノアの両手には、水と果汁ジュースがあった。
なにその両手の格差、と思いながらミヤコがノアを見つめていると、ノアは当然のように果汁ジュースをミヤコへ差し出した。
「ん。」
「え、」ミヤコはジュースとノアを交互に見やる。「お前水でいいの?」
「うん。いい。」
いい、と言われても。とミヤコは差し出されたジュースを遠慮がちに受け取りながら、僅かに居たたまれなさを感じた。
水を持ったままミヤコの向かいへ行き、ソファに腰掛けるノアを眺めながらミヤコは。
「……俺も水でよかったのに。」
「一応ミヤは客人だから。」ノアは続ける。「それに、ミヤ、そのジュース好きみたいだし。」
それはもちろん嫌いじゃない。何故なら美味しいからだ。
しかしそれはミヤコに限った話ではないだろう。
事実、広場の宴の時にノアもこのジュースを美味しそうに飲んでいた。ノアだってこれが好きなのだ。
けれどもノアはそれをミヤコにだけ持ってきた。それは何故か。
考えればわかることで、このジュースがこれだけしかなかったからに違いなかった。
たぶんこの家にある食料は数少ないだろう。
つまり飲み物は基本、水だけといってもいいはずだった。
このジュースをどういう経緯で持っていたのかわからないが、ノアにとっては貴重なものに間違いはなく、それを惜しまずミヤコに出してくれた。
ミヤコがこれを好きだろうと、それだけの理由で。
……人のことしか考えてないんだろうな、コイツは。
「……ありがと。」ミヤコは礼を述べた。「美味しくいただきます。」
「ん。」ノアはまた、嬉しさを隠してうなずいた。


