「何か飲む?」
ソファに座らず、先に腰を下ろしたミヤコへノアは聞く。
何故だか気分が沈みかけていたミヤコは、その声にぱっと顔を上げ、「え?」という目でノアを見た。
それは「なんて?」という意味と、「今?」というような意味、どちらにもとれる反応だったが、ノアはどうやら後者として受け取ったようだった。
ちなみにミヤコ本人の意思としては、どちらでもなく、とりあえず考え込んでいるのを取り繕う形で顔を上げた、というところだったのだが。
「飲まない?」ノアは頭を傾ける。「話、するんでしょ。」
「え、あー、うん。」ミヤコはようやく、先ほど自分から言った台詞を思い出した。「そうだった。」
途端にノアがクスクスと笑い始める。ミヤコはそれがバカにされたのだとすぐにわかってムッとした。
「なんだよ笑うな。」
「いや、だって自分で言ってたクセに。忘れてんだから。」
「うっさい。案内人は黙っとけ。」
「残念。もう日付変わってるんでした。」
「…………。」くそう。
「だからミヤの案内係は終わり。」
「そーかよ。」
「……ミヤ?」
なんだその、わかってる?みたいな顔は。
負けたじゃないか。
「…………。ありがとう。」
「どーいたしまして。」
渋々という口調でお礼を言ってやれば、ノアはふっと笑って、言葉を返した。
決して顔前面に感情を押し出していたわけではないその笑みは、けれどミヤコには伝わってくるようだった。ノアの心底、嬉しそうな気持ちが。
「……こんなお礼も、言われたことないんだろうな。」
二階の小さなキッチンへと姿を消したノアの背中を追いかけるように、背もたれに顎を乗せたミヤコはひっそりとつぶやいた。


