だだっ広い食堂に客室、先ほどまでノアが入っていただろう風呂場、古い家具は置いてあるが使われていない部屋が三つ。
二階にはリビングのような広い部屋と小さなキッチン、寝室に使えるような部屋が二つあった。
その内の一つにのみ、入った瞬間から生活感があるように思えた。
本棚にベッド、テーブルにソファ。
どこも片付いているが、どうしてかミヤコはそれを感じ取った。
「ここ、ノアの部屋?」
「うん。ここだけ使ってる。」
「へー……」ミヤコは部屋に入るノアの後をついて足を踏み入れ、そして理解する。「……あ、ノアの匂いがするんだ。」
「え、」よく聴こえなかったのだろう、ノアが無表情にきょとんとした色を交え、ミヤコを振り返った。「なに?」
聞き返されて、ミヤコは自分が今ひとりごちた言葉に気が付いた。
気が付いてから首を振る。なにいってんだじぶん。
「いや、なんでもない。」
ノアは「そう?」とでも言うように首をかしげ、ソファの方へと足を向けた。
気を取り直し、ミヤコもそれに続く。
ソファは座り心地の悪くないものだった。
しかしだからと言って、城にあるものと同じかと問われれば、それにはかなりの差があった。
ミヤコがぼすっと座ると、下でスプリングが跳ねる。
この跳ね具合は一般家庭のそれか、もう少し金銭に余裕のない者が買うようなものだ。城には是が非でも置かないだろう。
見てきた部屋に置かれていた家具も然りだが、この部屋にある家具もソファと同等である。
ハルトの話を疑っていたわけではない。けれどこの館を見るとあの話が現実味を帯びてくるような気がした。
ノアは確実に、王族から見放されている。


