「ノア。」そんな心境を振り払うように呼ぶ。「ん?」ノアが目を開けてミヤコを見下ろした。
その顔に向かって、にやりとしてみせる。
「俺がせっかく遊びに来てやったんだから、風邪引いたら許さない。」
「引かないよ。」ノアはつんとして言った。「俺はそんなにやわじゃない。」
っていうか、ミヤがしっかり拭いてくれてるじゃん。
と、ノアは付け加える。ミヤコは「たしかに。」と言って笑った。
するとつられたようにノアも頬を緩める。その笑みに陰りは見当たらなかった。
……あたしがノアを助けられるかも、ね。
ハルトのお願いを思い出す。
ミヤコはまったくもって自信などなかった。誰かを助けるなどという大それたことを、果たして自分にできるのだろうか、と。
けれどこの笑みを見て、考えを改めた。
助けようなんて思う方が馬鹿げている。そうじゃなくて、昼間に、夜に一緒に居たあの時間を思い出せばいいだけの話だ。
故に答えは、いつも通りにということだった。
ミヤコが普段通りに振る舞っているだけだというのに、ノアは陰りの無い笑みを浮かべてくれる。
それはつまり、そういうことだ。
「さて」ミヤコは館内を見渡しながら尋ねる。「何して遊ぼうかな。」
なんかある? と聞けば、ノアは考えるように首を傾けた。
「……トランプ?」
「二人で何すんだよ。」
「ばばぬき。」
「究極の選択すぎるだろそれ。」
「チェス。」
「俺ルールわかんない。」
「そうなんだ? 面白いよ、チェス。」ノアの表情が若干意地の悪いものになったので、ミヤコは断固拒否する。
習いながらやるとしたら確実に叩きのめされることは目に見えていた。


