では。
そう言いきって、ミヤコはハルトに背を向ける。
直後に聞こえた「ありがとう、ございます……」というお礼の言葉は、どこからどう聴いても、涙声だったので。
ミヤコは密かに困り顔で笑いながら、言った。
「王子様が泣き虫だと、国も泣き虫になりますよ。」
だから、そんなに泣くんじゃない。
―――――
アイに手伝ってもらい、風呂に入る前と同じように性別を偽る。
ただし、服は貸してもらったものを身に着けた。まったく同じ服装だと、風呂上りなのに不自然だと思ったからだ。
そうして出来上がった“ミヤ”を眺め、アイは「わあ……本当に格好いいですね!」と両手を合わせて微笑んだ。
自国に居た時もそうやって褒められたがもうこれは自分男に生まれた方が良かったんじゃないだろうか、とすら思ってしまうミヤコである。
それから、何かあった時のためにと剣を腰に携え、ハルトに教えてもらったルートを憶えてノアが居るという離れを目指した。
城を出ると、ミヤコの傍をふわりと橙色の光が飛んできた。
それはミヤコの周りをくるりと飛び、傍らに止まった。
どうやらハルトがノアの居る場所まで見守ってくれるようだ。
ミヤコは「ありがとう」と光に向かってお礼を言い、森の中へと入った。
躊躇なく小道をどんどん進んでいく。
月の灯りで真っ暗というわけではないが、それでもハルトの送ってくれた光はありがたいものだった。
しばらく歩いていると、傍らを飛んでいた光がすうっと先に行ってしまう。ミヤコはそれを追いかけた。


