涙を拭っていたハルトは驚愕の声を上げる。
ミヤコはけろりとした顔で腕を組んだ。
「女だからわかるんですけど、異性相手にするといろいろめんどくさいんですよ。相手が女なら話は別ですが男ならなおさら。同性の方が今回の件は話しやすそうですし。」
「そ、そうなんですか……?」
「あと身バレが怖いので。念には念を。」
「……そっちが本音なんじゃ……」
ぼそりと聞こえてきたハルトのつぶやきには、聞こえなかったふりをする。
「隣国の姫だってノアは知らないかもですが、他の人はわかるでしょ。対応が面倒なのでどこぞの無名騎士のほうがやりやすいんです。」
「そ、そうですか……!」
「そうなんです。姫めんどくさいです。別に風呂くらい自分で入れるっつーんですよね。ナメてんですかね。」
「ち、違うと思います……」
ミヤコのざっくりとした性格と言いっぷりに、慣れないハルトはたじたじである。
ひとしきり喋った後、ミヤコは腕を組むことをやめ、今度は腰に手を当てた。
「じゃあ、あたしは男装してきます。」
「あ、わかりましたっ」
「言っときますがあたしはノアと今日出会ったばかりです。何をしてあげられるかもわかりませんし、あなたの望み通りにできるかも正直自信ないです。」
「……はい」
「でも、あたしもノアの笑顔は好きです。だから、たぶんハルトさんの笑顔もあたしは好きだろうなって思うんですよ。」
「え……」
「二人に笑い合ってもらう。とりあえずあたしが今、望んでることです。」
「…………っ」
「というわけで、あたしはあたしの望みを叶えたいだけなので、特にこれと言ってなんのお礼も結構です。二人が笑ってくれればそれが一番です。」


