特別視されるのもうなずける。ましてや、代々受け継がれてきた言い伝えなど、一晩で覆せるものではない。
人は歴史に抗えないのだ。
「……つまり」ミヤコはあらゆる考えを瞬時にまとめる。「その貴重な力を持ったあなたが危険な目に遭わないよう、ノアが身代わりになっている、ということですか。」
「それも大いにあります。でも、もうひとつ理由があるんです」
「もうひとつ?」
「……俺は、体が弱くて、ですね……」あまり公言したくないのか、ハルトは若干言い辛そうだった。
「よく風邪を引いたりして、重要な式なんかに出られないことがあってはいけないということで、そういう理由でも、ノアが……」
ハルトはそこで徐々に口を閉ざした。
“身代わりに”という言葉をどうしても使いたくなかったのだろう。
そういう点でも、ハルトがノアを身代わりにしておきたくないという思いは、ミヤコにも手に取るようにわかった。
「ノアは、昔から邪魔者みたいに扱われていました。城にも住まわせてもらえなかったんです……っ」
堰を切ったようにハルトは話し始める。
「双子なのに一緒に住めないのは嫌だって何度も言いました、でも聞き入れてもらえなかったっ。
双子なのに身代わりなんておかしいって思って、ノアが居なきゃ家族じゃないと思って、俺は何回もノアの居る離れに行きましたっ。
でも、でもノアは絶対に城には入らないって、ハルが幸せならそれでいいってっ。
ノアが幸せじゃないなら俺が幸せなはずないじゃんって言ったら、ノアは、笑ったんです……すごくうつろな顔でっ……。
その時気づいたんです……ノアは、小さい頃からもう全部、全部を諦めてたんです……っ」
ミヤコは黙って、その話を聞いていた。


