しばし沈黙が流れた後、意を決したようにハルトが顔を上げた。どうやら後者だったようだ。
「ミヤコさんっ、お願いですっ!」
「は、はい?」
「ノアを助けてあげてくださいっ!」
「……は?」
開いた口がふさがらないとはまさにこのことか。
ミヤコはぽかんと口を開けたまま、懇願の瞳を向けてくるハルトを見つめた。
助けてあげてくれ、というのは、一体どういうことなのか。
ミヤコは再び「お願いします!」と切実に訴えてくるハルトに一度、右手のひらを向けて待ったを示した。
「ちょっと待ってください。意味がわからないんですけども。」
「あ、す、すみませんっ!」
「いや、えーっと……ノアを助けてくれって、どういうことですか?」
すぐに謝る姿勢はいいことなのだが、謝られてばかりではこちらが悪者に思えてくるので少々厄介である。
話も思うように進まないので、ミヤコは自分から話しを進めることに努めた。
「理由を教えてもらわないと、こちらとしても対処のしようがないんです。」
「そう、ですよね……えっと……」
「はい。」
「……ノアは、俺の身代わりとして、生きてるんです……」
「え?」
身代わり?
ミヤコにとってその言葉は、およそ信じることの難しい衝撃の一言だった。
けれどこの王子は、誰にも嘘をつかないだろうということはミヤコにも理解できていた。嘘をつかないというより、つけないのだと思う。
故に今の台詞は、真実であるということだった。


