それをもっと早く言えとミヤコは再び思う羽目になった。
この城の住人は皆がこうものんびりしているのだろうか。いいことだとは思うが、こちらとしては、重要事項はもう少し早く教えてほしいのだ。
すぐさま捕らえてやらねばならぬとミヤコが決意したことを感じたのか、ハルトが慌てたように両手を使って手刀を切った。
「あ、大丈夫です、この国を出ることはないと思いますし!」
「えもしかして話したんですか。」
「はい! なんでも、『次のなんちゃら式とかいうのがめんどいからさーこっち来ちゃったわー』ということらしくて!」
「あのクソ兄貴いつか滅ぼす。」
何がめんどいからさーだ。こっちはおめーのせいで大変迷惑こうむってんだよまあそれがお前の狙いだろうがな!
という思いで燃えているミヤコは、現在自分が隣国の王子を前にしているということをすっかり忘れていた。
だから、クスクスという楽しそうな笑い声が聞こえてきた時には、我に返って途端にここから消えてなくなりたかった。でなければ埋まりたい。
「……いいなあ」と、ハルトは笑いの残る表情で言った。「言い合えるきょうだいって、いいなあ……」
そんなこともないですよと答えようとして、ミヤコはふとハルトの言葉に疑問を覚えた。
“言い合えるきょうだいっていいなあ”とハルトは言った。
それはつまり、自分にもきょうだいがいるという意味にとれる。
そこまで考え、ミヤコは思い出す。そうだ、ノアだ。
先刻、ハルトが駆けつけてきた時に、ノアはその姿を見て「ハル」と呼んだのだ。
紛れもなくそれは愛称である。親しくなければ呼ばないだろう。
そして何より、二人の顔だ。
いや、顔だけならまだしも、背丈や体格までまったくと言っていいほどに似通っていた。
ミヤコは可能性について考えを巡らせる。それから尋ねた。
「……あの、聞きたいんですけれど。」
「はい、何でも聞いてください!」
ミヤコの発した言葉に、ハルトはうれしそうに応答する。
性格はノアと真逆だよなあ、とハルトの様子を見ていて思った。


