ミヤコはハルトの向かいに座り、紅茶をすすりながらそう考えていた。
「……えっと、それで、ミヤコさん」ハルトに名前を呼ばれ、ミヤコは紅茶のカップから顔を上げる。ハルトは控えめにミヤコの方を見つめていた。
「はい。」
「……隣国の姫が、どうしてここに? それも、ひとりで……」
「…………。息抜きです。」
嘘はついてない、とミヤコは言外に匂わせる。
嘘ではないが事実でもない。
事実は息抜きなどという可愛らしいものではないのである。なんといっても逃亡だ。
息抜き以上何も言わないミヤコに、ハルトは少々困ったような笑みを浮かべた。
「ええっと……息抜きですか! わ、わかります! 俺もたまに、お城抜け出して街に行って、息抜きすることがあるので!」
「えぇ!? 王子様そんなことしてたんですか……!」新しい紅茶を淹れていたアイが驚愕の表情でハルトを見やる。
途端にハルトは「ご、ごめんなさい!」と謝った。
度胸があるのかないのかわからない王子である。
アイが新しい紅茶をテーブルに置いたところで、気を取り直した様子のハルトが再びミヤコに向き直った。
「えっと……じゃあ、アレですね! 男装してたのは、ひとりでも危なくないようにということですよね!」
「…………。そうです。」
これは完全に事実とは異なっていた。
それが声音に出ていたのか、今度こそハルトは困った表情になってしまった。
「……違うんですね」
「…………。まあ、違いますね。」
「何かあったんですか?」
「…………。」
「あ、えっと、こちらで何かできるようなら、ぜひ手伝わせてほしいのですが……」


