アイはミヤコの様子に気が付いていないのか、何かを思い出したようにもう一度口を開いた。
「そういえば、もうすぐ王子様がこちらにいらっしゃるそうです」
「それもっと早く言ってください!」
髪の毛も乾かしていなければシャツとパンツという完全な部屋着状態である。
どう考えても身分バレまでしているだろう隣国の姫が、まさかこんな格好で一国の王子を前にできるわけがない。
いろんな問題が一気に降りかかってきてもう何がなんだか、という状態のミヤコは、ドアがノックされる歯切れの良い音にピタリと硬直する。
コンコン。
二度、叩かれたドアへと視線を移す。返事をしたくないような気もしたが。
「はいっ」
慌てた様子でドアへ駆け寄り、ドアノブを掴んで回すアイの後姿に、もうどうにでもなれ、という心境だった。
ミヤコは開かれるドアの向こうを見やる。こうなったら素のままで会ってやろう。
覚悟を決め、開かれたドアの向こうへと姿勢を正す。
そうして目が合った王子は、凛とした表情のミヤコを見つめ、口元を緩めた。
「……こんばんは、ミヤコさんっ」
そう言って穏やかに笑った王子の名は、ハルトと言った。
―――――
ハルトという人間は、話せば話すほど、コイツホントに王子か、と疑いたくなるような人間だった。
どこにも威厳がなく、人を見下したようなところすらなく、ましてや紅茶を出してくるメイドに対し「あ、ありがとう」とお礼と共に笑いかけている。
しかし、だからこそ納得がいく。
夜の街を照らして国民を見守ろうという、その意思は間違いなくこの王子のものだということに。


