どうしようやばいこれはやばい。水に濡れたら女になるんですとか言えばいいのかそうなのか。
などという通用するはずもない言い訳は捨て、ミヤコはどうにかこうにか、口を開く。
「え、っとですねこれは、」
「あぁ、本当に女性の方だったんですね!」
……え?
ぱっと表情が変わり、笑顔になったメイドはドアを閉め、運んできたお茶もそのままにミヤコの方へと駆け寄ってくる。
ふわふわとした髪の毛が童顔を覆うそのメイドは、ミヤコを見上げて再び笑う。
「先ほど、王子様にそう教えられまして。あの方は女性だという風におっしゃられておりまして、もうわたしとても驚いてしまいまして……」
「……え王子さんがそう言ってたんですか。」
「はい! あ、王子様と呼んではおかしいですね、すみませんわたしのクセでして……直さなければいけないのですが……」
「あいえその話じゃなくて。」
「あ、なんでしょうか?」
「あの、あたしが女だって、王子様ご本人が言ってたんですよね?」
「そうです、おっしゃってました。あ、それでわたしは、あなたのお世話を任されました、アイと申します。よろしくお願いいたします!」
一体何がどうしてあたしが女だとバレた……。
ミヤコはふわふわと笑顔を浮かべているアイと名乗ったメイドの前で、右手を額に載せ、ため息をついていた。
王子の前で失態を晒すことはしていないはずだが。どういう経緯でミヤコが女性だとわかったのだろうか。
ミヤコはしばらくその考えに浸ろうとしたが、すぐに別の問題と焦りが浮上する。
……待てよ、王子にバレてるならノアにも……。
それだけは困る、とミヤコの焦りは一気に膨れ上がった。
今の今まで一緒に居た男がまさか女だったなど。騙していたのと同等である。
しかもその女は隣国の姫ときた。
女性だとバレていれば長髪の顔もバレている。つまりはミヤコが一番危惧していた芋づる形式の身分バレだ。
もはや成す術もないか、ミヤコはそこまで考え、諦める。


