「……ふっ、ははっ、ははははっ、調子に乗りやがってッ!」
怒声が耳をつんざく。ミヤコは咄嗟に顔を背けた。
なんとか剣を、と思い右手を伸ばすも、すぐそこにある剣にはしかし、とうてい届かない。
途端に首を捕える腕に力がこもる。ミヤコは「うっ」と呻き声を上げた。
恐怖をいっさい感じていない様子のミヤコに、賊のリーダーは酷く苛立ったようだった。
「さあて、どうする王子?」リーダーの男は狂気めいた口調でノアに諭す。
しかしノアは動じない。静かにナイフを構えてみせた。
「なんだ? 味方ごと串刺しにでもするのか? 非道なヤツだなあ!」
「……誰が、ミヤごと刺すって言った。」
――シュッ。
ミヤコの頭上で何かが風を切る。男の髪の毛が数本、風に舞った。
男は口を閉ざす。ミヤコは目を見開いた。
この目で捉えられなかったのだ。
ノアが、ナイフを投げる様を。
ノアはもう一度右手を構える。その指から一本、ナイフが消えていた。
「言っておくけど」ノアの口調は至って静かだ。「俺、狙った的は外さないんで。」
ミヤコの首を捕える男の腕が震えだす。終わりだと悟ったらしい。
ずるり、と力の抜けた腕が下へと下って行く。
そのまま離れていくのだと思ったミヤコは、腕が何かに気が付いたように、ある一定の場所で止まったことに不審を抱く。
その、一定の場所は。
そして、ハッとする。ぶわっと背筋に嫌な汗が吹き出す。
しっかりと隠している。だが、触れられればバレかねない。
ミヤコは胸を触られたことよりも、自分が女だとバレることのほうが何より恐ろしい事のように思えたのだ。
「……お前」すぐ耳元で、賊のリーダーが驚いたような声色で言った。「もしかして、おん――」
言葉はそこで途切れた。


