一体どれほどの訓練を重ねてきたのだろうか。考えるだけで気が遠くなる。
「ぐっ」呻き声が響く。ミヤコの剣が相手の剣を軽々と受け止めていた。
ぎりぎりと剣が交差する。
すぐにでも弾けるだろうその剣を、しかしミヤコは弾かずに近づいた。
「……で、どうよお前等。“おもちゃ”に斬られるご気分は。」
それは限りない挑発の言葉。
剣を抑えられている男は苛立たしげに歯ぎしりをする。ミヤコは口角を持ち上げた。
怒りに冷えたその笑みは、見たものを怯えさせるには十分だった。
一瞬怯んだ男の剣から弾かれるより先に、ミヤコはくるりと身を翻す。
ステップを踏むように。軽やかな足取りで。
流れるような剣は弧を描いた。
途端に男の脇腹から血が噴き出す。崩れ落ちるその傍らに剣を突き立て、ミヤコは賊のリーダーを見上げた。
「下っ端がやられていくのにビビったかおめー。」
「……テメェ……」
「ムカつくんならかかってこいよ。俺は相手してやるっつってんだ。」
ミヤコは冷ややかな笑みをたたえる。
騎士のような格好にこの口調、この戦いぶり、この微笑。どう間違えても、ミヤコを女だと思う者は居ない。
ミヤコはどこかで、いつも欠かさずやっていた訓練が役に立ったことに喜びを覚えていた。
誰かのために剣が振れることはなんて幸せなんだろう。
一国の姫としてあるまじき考えだろうが、ミヤコにとってその思考は心地の良いものに思えた。
そうして一瞬でも怒りが解けたからだろう。
ミヤコは背後に迫る賊のひとりに気が付くのが遅れた。


