ミヤコはスッ……と、体の芯が冷えていくその感覚を味わった。
カッともならない、それは恐ろしいほどに静かな怒り。
自分が侮辱されたのはどうでもいい。見下したいなら勝手にすればいい。
ただ、自分の“大事な人”が傷つけられることだけは、黙って居られる性質じゃない。
あたしはそんな、腐った根性してねえよ。
「――お前等、土下座して謝っても許さない。」
――キンッ。と。
鞘から剣を優雅に抜いて、ミヤコは一歩踏み出した。
ノアが止めようとするのを背中で拒否する。
リーダーの男が、ミヤコを見下ろし「ほう」と愉快気に口元を歪めた。
その顔に剣先を突き付け、ミヤコは怒りに冷えた声音で言った。
「俺に喧嘩を買わせたことに、全身全霊で後悔しやがれ。」
―――――
「大口をたたいた割にはこの程度か」とでも言いたかったのだろう賊たちは、ミヤコの剣術を前に絶句していた。
すでに二人も地面に這いつくばっている。
ノアはミヤコの戦いぶりを後ろからただ眺めていた。いや、見惚れていたと言った方が正しいかもしれない。
剣の扱い方は国特有のものがある。それを攻略してしまえば、戦えない敵はないと言っていい。
しかし、ミヤコの剣術はどの国のものでもなかった。
いや、“どの国のものもすべて併せ持っている”のだ。
ラクサー国やオウーイ国だけではない、周りの国々、そしてもっと遠くの国々の剣術までをも融合させ、無駄のない動きを作り上げている。
一日、二日では到底取得できないだろうその技を、ミヤコはとうに自分のものとして剣を振るっていた。


