その写真には、オウーイ国の王妃と共に映る、ひとりの少年が居た。ミヤコは目を見張る。
少年の顔は、紛れもなくノアだった。
どういうことだ、とミヤコは咄嗟に考察する。あの写真に写っているのは間違いなくノアだ。
隣に王妃が映っているのだし、写真の中の恰好はまさしくと言ったようなもので、まごうことなきあれは王子と言っていいだろう。
しかし、ではなぜ昼間の少女は「雰囲気が違うと思ったの」と言ったのか。
あの年頃の少女はそういうところに敏感だ。何か少しでも変わったところがあれば無意識に気が付く。少女はそれを、ノアに感じ取ったのだ。
だが、写真に写る少年はどう見てもノアなのだ。
わからない、とミヤコは下唇を噛む。どうしても意味が解らない。
ノアは今度こそ口を閉ざしてしまった。否定の言葉すら聞こえてこない。
それを肯定と受け取ったらしい賊のリーダーは、満足そうな顔で写真をひらりと地面に落とした。
そうして、踏んだ。
「お前等王族のおかげで俺たちはなあ……」男は靴底で写真を踏み潰しながら国に対する、いや、王族に対する不満を口にし始めた。
「勝手に法を変えやがって」とか「ろくに働きもしねえくせして金は手に入るんだろ?」だとか。
「毎日優雅な生活してんだろうなあ」「いいもんばっか食ってんだろ」「悩みなんかなさそうで何よりだなあ」
それはもはや、不満というよりただの愚痴だった。
ミヤコは瞬きを忘れる。その目は、踏み潰される写真を見下ろしていた。
王妃と、緊張していたのか少し強張った笑みを浮かべた、もう見慣れてしまった少年の顔が思い浮かぶ。
王族はなかなか写真を撮らない。違う、撮れない。
家族が一緒に居られる時間が少ないためだ。それをミヤコは身に染みて理解していた。
だから、今賊の足下にある写真が、どれだけ貴重な一枚なのかということも知っていた。
もういいか、とミヤコは考えるのをやめた。
誰が王子でもいい、なんでもいい。そんなことは今、関係ない。
そんなことよりなにより、今はこの、目の前のクズヤロウを、どうにかしてやらないと気が済まない。


